f1, f2, f3, f4の力覚センサによって計測される床反力


フォースプレートは,通常,3個または4個の力覚センサによって,まずを直接測します.この複数の力覚センサで計測される力の総和が床反力地面反力)です.このとき各センサの位置が既知なので,COP(圧力中心)やフリーモーメントなどを計算できますが,これらは二次的に計算される物理量です.

そこで,ここでは,この「床反力の物理的な意味」について考えていきます.

床反力とは?

通常,フォースプレートの上にはヒトが立ち,そのときの身体運動によって発揮される床反力が計測されますが,この床反力が物理的にどのようなメカニズムによって変化するかその力学を考えていきます.

なお,一般的には,吸盤などによってフォースプレートに接触するような利用方法は想定されていません.水平方向には摩擦だけが作用し,法線(鉛直)方向に対してはフォースプレートを持ち上げる(引っ張る)ような力を作用させないことが前提となっています.

床反力を支配する力学

静止してフォースプレートの上に立てば,フォースプレートの計測値には体重が反映されます.
では,さらに身体運動によって,床反力がどのように変化するのか,その力学を考えていきます.

床反力を拘束する全身とフォースプレートの運動方程式は,次のようになります.



身体各部位に作用する加速度


この式の左辺のmiは身体のi番目の部位の質量を表します.xiはi番目の部位の重心位置を表し,さらに2つのドット(ツードットと呼ぶ)が上部に書かれていると,これはその位置の加速度を示していますので,xiの加速度(ツードット)は「部位iの重心位置の加速度」を意味しています.
さらに,mi × (xiのツードット)は,身体部位iの質量と加速度の積ですが,これは部位i慣性力に相当します.つまり「部位iの運動によって生じる(見かけの)力」を表しています.

左辺のΣの記号は,全てを加算するという意味ですから,左辺は全身の慣性力になります.

この左辺をさらにまとめると,



のように書き表すことができ,ここでMは全身の質量(体重),xGは身体重心の位置ベクトルで,そのツードットは身体重心の加速度を示しています.

つまり,「各部位の慣性力の総和」は「体重と身体重心の加速度で表現した慣性力」に代表される(置き換えられる)ことができました.

次に右辺の第1項 f は身体に作用する力,すなわち床反力です.第2項は全部位の質量Σmi と重力加速度gの積で,同様に右辺の第2項はM gと書き表せるので,最初の式は




のように書き換えることができます.すなわち,床反力 f は,身体重心の加速度と重力加速度で決まることがわかります.静止して,身体重心のxGの加速度が0なら,体重と等しくなります.もし運動すれば,さらに身体重心の加速度に比例して変動することになります.

床反力と身体重心の加速度

フォースプレートで計測できること」でも述べたように,身体にとって床反力は重心を動かす動力源であったり,ゴルフクラブやバットなどの道具を加速するための動力源となります.
そして,ここでは,その動力源である床反力が身体重心の加速度と重力加速度に拘束されることを示しました.では,この大切な動力源を身体はどのように生み出したり,減らすことができるのか,次に考えていきたいと思います.

身体重心

まず,ここで身体重心の式だけを示します.



この身体重心の式は「各部位の質量で重み付けされた加速度」を意味しています.また,質量が大きい部位は,一般に体幹回りや下肢にあります.

したがって,大きな身体重心の加速度,すなわち大きな床反力を得るためには,体幹回りや下肢の加速度を大きくすることが重要であることがわかります.

さらに,目的とは反対方向の加速度が発生すると力が相殺されてしまうので,どの部位も同じ方向の加速度が生じるように,身体を一体化させることが重要といえます.

体幹トレーニングの意味

床反力が身体運動の動力源で,大きな床反力を得るためには,身体の中で質量の大きい体幹回りや下肢の部分が一体化し,その加速度がおおよそ同じ方向を向いていることが重要であると述べました.そのためには,下肢などの運動で作られた加速度が,最も質量の大きい体幹回りで「ぐらつかない」ことが重要となるといえます.このぐらつきは,目的の運動にとっては「力やエネルギーの漏れ」の原因となります.

そして,これが,近年体幹トレーニングの重要性が叫ばれている大きな理由と考えられます.特に深部の筋肉は,その周辺部の力(加速度)によって動かされる力に負けないように,すなわちエネルギーが漏れ出さないようにし,力やエネルギーを伝達したり,体幹全体の加速度で大きな動力を生み出す役割を果たしていると考えられます.

また,筋肉には高速に収縮するほど,筋肉自身の収縮にエネルギーを消費してしまいますので,筋肉の外部に対して大きな力を与える余力が減ってしまうという重要な力学的性質があります.このことから,筋肉を収縮速度が小さくなるように(アイソメトリックに近づけるように)力を発揮することで,筋肉の外部に対して最大限の力を発揮し,仕事をすることが可能となります.そこで,特に動力源となる部位では収縮速度が大きくなるように動かすよりも,大きな加速度を発揮するような動かし方(一般に力感があっても,速度は小さい動かし方)が重要と言えます.

我々は,ヒトのこのような運動に対して,感覚的に「無駄の少ない運動」と感じているのかもしれません.



床反力の水平成分の物理的意味

このように,身体運動の動力源である床反力は,特に身体の中心付近の大きな質量部分の加速度が反映されていることがわかります.

さて,床反力が動力源と考えると,ついついその鉛直方向成分の値が気になりがちです.実際,体重の影響もあり鉛直方向の成分は水平成分よりも大きくなることが一般的ですし,良いパフォーマンスをしているときの床反力の鉛直成分が大きくなることも多いのも事実です.したがって,大きな鉛直方向の力を大きくすることが重要と考えがちです.

しかし,人間の運動にとって水平方向の力も重要な役割を果たしています.そこで,鉛直方向の力に埋もれて見失いがちな,床反力の水平成分の物理的な意味については「床反力の水平成分」で考えていきたいと思います.