床反力の水平成分が走速度を規定


フォースプレートで床反力を計測すると,その大きな鉛直方向の力成分に注目してしまいます.実際,ランニングの運動の床反力を計測すると,大きな鉛直方向が計測され,走速度が大きいほど鉛直方向の速度も大きくなります.

しかし,いくら鉛直(法線)方向の力が大きくても,空中期の時間が長くなるだけです.「走速度を直接拘束するのは,床反力水平成分」です.

走速度に対する鉛直成分と水平成分の関係

走速度は床反力の水平成分によって直接規定され,「水平歩行の加速度の積分(面積)」によって計算されます.なお,水平方向の加速度は床反力の水平成分を質量(体重)で割ることで計算できます.

ただし,身体運動では,床反力の水平成分は鉛直方向の成分と独立に決まるわけではありません.

摩擦の観点から

摩擦の観点から,水平方向の力を作用させるために鉛直方向の成分は必須となります.

次に,重力の観点から,ヒトは水平方向や接線方向に力を発揮しにくく,水平方向の力を発揮するために(問題によっては機械的に無駄な)鉛直方向の力を発揮することがよくあります.スキー,スケートや,自転車のペダリングや,ゴルフやバットのグリップ力でも,機械的に無駄な力(物理的には内力といいます)を発揮することが多く,接線方向の力を絞り出すために,大きな内力を発揮することはよく行います.

「仕事をしない成分」

「機械的に無駄」とは,床面などの幾何学的な拘束によって法線方向に動かないために,それは「仕事をしない成分」という意味です.

また,この無駄な法線方向の力と,機械的には有効に作用する接線方向の力の割合(角度)は,筋肉と運動の状態(速度と力の関係)に応じて調整することで,最適なエネルギー伝達を実現でき,これは機械的な最適インピーダンス(パワー)マッチングという問題と関係します.



スイング動作の例

ここまで,フォースプレートで移動運動で計測した際に,大きな鉛直方向成分に目を奪われがちで,値としても小さく埋もれがちな水平成分ですが,物理的にはこの水平成分が重要であるということを述べました.

ここでは,さらにゴルフスイングやバッティング動作の例について取り上げます.

スイング運動では,最終的にはクラブやバットに与える右手と左手の力でこれらの道具を加速します.このような力のセットは偶力と呼ばれ,左右のグリップ力がつくる偶力によって力のモーメントを発生させ,道具を回転させています.

こららの左右のグリップ力は,もとをたどっていくと,やはり床反力が動力源で,左右の脚の床反力の水平成分がそれぞれ反対方向に作用することによって,腕の回転やグリップに作用するモーメントへと変換されています.

このとき,鉛直方向の床反力も大きな役割を果たしますが,左右のグリップ力に大きな偶力を発生させるためには,左右の床反力の水平成分が作り出す偶力が重要な役割を果たします.



デュアルフォースプレートを用いた計測



デュアルフォースプレート計測システムを用いることで,左右の水平方向の床反力成分を計測することができます.


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