連続リバウンドジャンプ


RJ指数は図子らの研究[1]で提案された指数で,

『ドロップジャンプでは,踏切中の平均力や平均パワーが同じであっても,技術と体力の両面を反映した跳躍高は異なる場合がある.また一方では,跳躍高が同じであっても,踏切前半のブレーキ動作や緩衝動作,あるいは伸張から短縮への切り換え動作などの優劣によって,踏切時間はかなり異なる場合がある.そこで本研究では跳躍時間から求められる跳躍高と踏切時間を用いて,ドロップジャンプの遂行能力を評価する指標...』

という観点から導入された指数ですが,この指標の持つ物理的意味は必ずしも明確ではありません.そこで,ここでは質点バネモデルを考え,まずRJ指数の物理的意味を考えていきます.


RJ指数の定義


RJ指数の算出式を次に示します.



ここでhは跳躍高で,Tcは接地時間です.跳躍高hは空中期の時間から算出します.

質点・バネモデルの導入

全力で連続リバウンドジャンプをしている際に,身体全体が質点と線形な弾性体から構成されていると仮定します.
この仮定は,粘性や弾性の非線形性などは考慮しておらず精緻さには欠けますが,「マットスイッチによるRJ指数の測定」で述べた「共振」や「機械的なインピーダンス・マッチング」の考え方からも,身体全体の近似としては大きな間違いはないと思われます.また,高反発特性の高い選手が高いバネ特性を持っているというこれまでの過去の計測結果からも,このような近似は的外れではないと思われます.

そこで,以下の図


質点バネモデル


トランポリンと跳躍競技におけるインピーダンスマッチング


トランポリン競技では,身体をトランポリンのバネ特性にあわせるような力発揮を行い,「あたかも」同程度の硬さのバネとして振る舞うことでより高く跳躍することができます.

一方,陸上競技の短距離走や跳躍競技などでは床が硬いため,トランポリン競技などと比較すると身体を「あたかも」より硬いバネのように振る舞わせ,床面との間に高い反発力を生み出すことで,より高い競技能力を達成していると考えられています.他にもバスケットボールやサッカーなどにおける方向転換などでは,「短時間で力やパワーを発揮する能力」が必要とされ,ここでは「高反発特性」と形容することにします.

これは物理的には共振機械的インピーダンスマッチングと同じ原理で説明することができます.たとえば,スーパーボールが床面の硬さに見合った高い弾性特性をもっているために,高反発することと同じ原理です.すなわち,競技力を向上させるために,トランポリンや床などの「環境の硬さ(機械インピーダンス)」に応じて,「身体の硬さ」を同程度に「共振(マッチング)・整合」させる,最適な力学原理に自然と従うように,ヒトはトレーニングによって高い跳躍力を獲得していると言えます.

したがって,この「高反発特性」は機械的なインピーダンスマッチングという適応から,言い換えるなら「硬い床面という環境に適応して,身体が大きな反力を獲得する」という競技特性から必要とされている能力と言えます.

なお,冒頭「あたかも」と強調したのは,身体全体がそのような固有の弾性特性を有しているわけではなく,全身の制御を行っている結果,「あたかも」見かけ上そのような弾性特性を実現しているだけで,その特性は筋肉固有の物理的特性ではありません.ただし,特に大きな反力を必要とするような制御を実現するためには,トレーニング等によって獲得された高い筋骨格系の能力が不可欠です.


同じバネ特性による共振(機械インピーダンス整合)


連続リバウンドジャンプとRJ指数


トランポリンのようなバネよりもさらに硬い床面に対して,短時間で高反発するように力やパワーを発揮する「高反発特性」は,一般には連続リバウンドジャンプの計測によって調べられるRJ指数(リバウンドジャンプ・インデックス)で数値化できます.

連続リバウンドジャンプとは「できるだけ短い接地時間で高く跳び上がる」動作を連続して行う動作です.国立スポーツ科学センター(JISS)で行われている標準的な計測では,5回連続してジャンプを繰り返します.

陸上の跳躍競技などの高反発特性を有する選手の連続リバウンドジャンプでは,一般に「跳躍高が高く」,「接地時間が短い」傾向が顕著です.そこで,この「跳躍高」と「接地時間」の比であるRJ指数を計算することで,被験者の下肢や体幹の「短時間で発揮するパワー発揮能力」(高反発特性)を調べることができ,国内では普及した測定方法と指標となっています.幸い,国立スポーツ科学センター(JISS)でも,エリートアスリートの体力測定の測定項目として公開されていますので,一流選手のデータと比較することも可能です(参考資料:フィットネスチェックハンドブック―体力測定に基づいたアスリートへの科学的支援―,ハイパフォーマンスセンター:フィットネスチェックマニュアル).

そこで,次にマットスイッチを使用した,パワー発揮能力の評価方法について具体的にご説明します.


連続リバウンドジャンプ


ここでは,国立スポーツ科学センターの計測方法をご紹介します(ハイパフォーマンスセンター:フィットネスチェックマニュアル).


ウォーミングアップ


f1, f2, f3, f4の力覚センサによって計測される床反力


フォースプレートは,通常,3個または4個の力覚センサによって,まずを直接測します.この複数の力覚センサで計測される力の総和が床反力地面反力)です.このとき各センサの位置が既知なので,COP(圧力中心)やフリーモーメントなどを計算できますが,これらは二次的に計算される物理量です.

そこで,ここでは,この「床反力の物理的な意味」について考えていきます.

床反力とは?

通常,フォースプレートの上にはヒトが立ち,そのときの身体運動によって発揮される床反力が計測されますが,この床反力が物理的にどのようなメカニズムによって変化するかその力学を考えていきます.

なお,一般的には,吸盤などによってフォースプレートに接触するような利用方法は想定されていません.水平方向には摩擦だけが作用し,法線(鉛直)方向に対してはフォースプレートを持ち上げる(引っ張る)ような力を作用させないことが前提となっています.


床反力の水平成分が走速度を規定


フォースプレートで床反力を計測すると,その大きな鉛直方向の力成分に注目してしまいます.実際,ランニングの運動の床反力を計測すると,大きな鉛直方向が計測され,走速度が大きいほど鉛直方向の速度も大きくなります.

しかし,いくら鉛直(法線)方向の力が大きくても,空中期の時間が長くなるだけです.「走速度を直接拘束するのは,床反力水平成分」です.

走速度に対する鉛直成分と水平成分の関係

走速度は床反力の水平成分によって直接規定され,「水平歩行の加速度の積分(面積)」によって計算されます.なお,水平方向の加速度は床反力の水平成分を質量(体重)で割ることで計算できます.

ただし,身体運動では,床反力の水平成分は鉛直方向の成分と独立に決まるわけではありません.


フォースプレート


運動のパフォーマンスを知る上で,角度,位置,速度,加速度などの運動を知ることは重要です.

さらに,それらの原因を作っているについて理解することも,重要です.
たとえば,投球速度やスイング速度が最大になる時間よりもかなり前に,身体全体で運動のエネルギーが生成され,腕やバットなどの道具に伝達されています.ゴルフスイングの場合では,トップからダウンスイングの前半でスイング速度は決まってしまいます.
リリースする際やヒットする際にいくら努力しても,一般には,エネルギーを増大させるという意味では,手遅れです.ゴルフにおける具体例は「フォースプレートでできること」をご覧ください.

速度などの運動現象は,あくまでも力によってなされた現象の現れですから,運動の原因であるを計測し可視化することはとても重要です.

反力をいかす

ヒトは大きな力を発揮するために,何かを押したりすることで初めて大きな反力を得ることができます.


暖簾に腕押し


硬いものや重たいものなどを押すことで,大きな反力が生まれます.極端に述べると,押すものがなければ大きな反力は得られません
スポーツに限らず多くの身体運動では,ヒトは地面を押すことで,反力を得ることができ,その力を身体運動に有効利用しています.

床反力(地面反力)

身体全体にとって,床反力は身体運動を行うための外力になります.すなわち運動の動力源です.身体が接触している部分が地面以外になければ,身体運動において床反力が(見かけ上)唯一の外力になります.

身体運動の課題

したがって,身体運動ではこの床反力を生成し,それを目的の場所に伝達することが運動における最も重要な課題になります.
歩行やランニングなら,床反力を身体重心に伝達することで,ゴルフスイングならクラブに伝達し,野球の投球ならボールに伝達することが運動の主な課題になります.
身体を移動する際には床反力が身体重心に作用することがイメージしやすいかもしれません.さらに身体重心よりも離れたボールやクラブなどの道具に伝達する運動の場合,床反力が伝達していくことがイメージしにくいかもしれませんが,実は,スイング運動でも,スイング(振り子)運動を行うための動力源はやはり床反力が中心で,身体を経由して伝わっていきます.


床反力がクラブに伝達される


床反力を計測する道具:フォースプレート

フォースプレートは身体運動の動力源である床反力(地面反力)を計測する道具です.フォースプレートを用いた計測によってどのようなことを明らかにできるかは「フォースプレートで計測できること」を,フォースプレートの詳細は「フォースプレートによる力計測」をご覧ください.