概要


前章まではヤコビ行列の数学的背景を中心に述べた.身体運動におけるヤコビ行列は,手先速度と関節速度間の関係を記述することで,速度レベルでの運動の(座標)変換を担う.これは冗長自由度を論じるベルンシュタイン問題にも関係する.一方,ヤコビ行列は速度のみならず力の伝達や変換の役割も担うことができ,実はベルンシュタイン問題は議論を運動学から力学に転換すれば解消する.これらの議論は,次章以降で述べるの手先力と関節に作用するトルク間の静力学関係へ発展し,議論されるが,本章では数理的な議論の展開を中心に述べるにとどまる.しかし,身体運動にとって地味に重要な内容が散りばめられているので,注意深く読んでいただけたらと思う.

目次

  • はじめに
  • 身体構造とヤコビ行列
    • 2リンク平面モデル
    • 逆行列と特異点(特異姿勢)
    • 2リンクモデルのヤコビ行列の逆行列と行列式
    • 3リンク平面モデル
    • 冗長性と逆運動学
  • おわりに
  • 補足
    • 補足1:特異性
    • 補足2:行列式
  • 参考文献

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動かして学ぶバイオメカニクス #28 〜ヤコビ行列#2



概要


おそらくロボティクスの講義ではヤコビ行列について学ぶ機会があるだろう.ロボットにおいて,これは足先や手先と各関節間の運動学的・静力学的関係を記述する関数行列を意味する.一方,バイオメカニクスを専攻してもヤコビ行列を学ぶことはないかもしれない.しかし,身体運動の意味を考える上で実は必須の概念で,ヤコビ行列は身体運動(ロボットでも)において,全身の姿勢の意味を抽象的に議論する上では欠かせない数理的な道具だ.身体運動においてそこには多くの意味があるが,その中でも最も重要な意味をあえて取り上げるならば,それは身体全体のてこ比(モーメントアームの外積)をまとめて行列に記述していることだろう.ヤコビ行列を数理的に理解するためには,線形代数(行列,外積)と微分のごく基礎が理解できていれば難しくないので,ここでぜひ理解を深めていただきたい.物理的意味を理解しただけでも,面倒な計測や計算を行わずにヒトの運動を観察しただけで姿勢の良し悪しが判断できるなど,バイオメカニクスだけでなく,トレーニングや理学療法に携わる方にはメリットは多分にあるだろう.何回かにかけて丁寧に話を進める

目次

  • はじめに
  • 数学におけるヤコビ行列の意味
    • 多次元のヤコビ行列
  • 例題:平面運動
    • 極座標で表現した平面運動
    • 円運動の例
    • 法線方向の運動
    • ヤコビ行列の幾何学的意味
  • おわりに
  • 補足
    • 補足1:全微分と偏微分
  • 参考文献

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動かして学ぶバイオメカニクス #27 〜ヤコビ行列#1



概要


習熟した全身運動では道具が身体化されるという議論もある.一般に道具がパフォーマンスの最終出力位置に近く,道具の慣性は身体運動に強く拘束することが多い.そのような身体運動の力学計算では,身体の質量や慣性モーメントだけでなく,バットやクラブなどの道具のパラメータが必要である.ところが,身体の質量や慣性モーメントなどのパラメータを推定するモデルはこれまで示してきたが,道具の慣性モーメントは未知のときが多く自分で計測するしかない.そこで,ここでは慣性モーメントを計測する方法と原理について述べる.

目次

  • はじめに
  • 振動の力学
    • 単振り子
    • 単振り子の運動方程式
    • 単振動
    • 物理振り子
    • 二本つり振り子
    • 平行軸の定理の利用
    • 例:ボールの慣性モーメント計測
  • 例題
    • 慣性モーメントの推定の実際
  • 追記(230713):計測の実際と注意点
    • 振動周期の計算例
    • JABAボールの慣性モーメント
  • 補足
    • 補足1:単振り子の運動方程式
  • 解答例:ボールの慣性モーメント
  • 参考文献

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動かして学ぶバイオメカニクス #26 〜道具の慣性モーメント計測〜



概要


引き続き,アメリカンフットボールのキック動作の解析例を示す.特に理論的な目新しさはないが,これまでの解析の復習と捉え,貴重なデータを用いて実際に動かし,自由にコードを書き換えることで学んでいただければと思う.数理を自分でコード化し,動かして確認することで,数理の理解がより強固になるはずである.

目次

  • はじめに
    • この章の課題
    • 確認した動作環境とコードについて
  • アメリカンフットボールのキック動作の力学解析
    • キック動作における関節に作用するトルクによるエネルギー流入
    • 「関節に作用する力(内力)」によるエネルギー伝達
    • 「関節に作用するトルク」によるエネルギー供給・吸収: 遠位側への流れ
    • 「関節に作用するトルク」によるエネルギー供給・吸収: 近位側への流れ
    • 右脚に注目すると
  • おわりに

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動かして学ぶバイオメカニクス #25 〜キック動作の全身解析 2〜



概要


身体運動の力学解析の全自動化を実現できないことはない.しかしフィルタリングの重み係数などの設定次第で解は大きく異り,パラメータ等の確認作業を省いてしまっては,安心した計算結果を得ることはできないだろう.ここでは,これまでのようにきれいに計算された結果だけを示すのではなく,その結果を出す試行錯誤の過程も含めて示していく.未知なるデータの完全な自動化は難しいが,工夫すればこれらの作業の省力化は可能なはずだ.

目次

  • はじめに
    • 確認した動作環境とコードについて
  • データの確認
    • 1.トリミング
    • 2.フィルタリングのパラメータ
    • 3.足部が接地しているフレームの確認
    • 4.全身の角運動量の計算方法の確認
  • スティックピクチャ
    • ZMPの推定
  • 次回について
  • 補足
    • 補足1:フィルタリングの課題
    • 補足2:フィルタリングのパラメータの選択

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動かして学ぶバイオメカニクス #24 〜キック動作の全身解析 1〜