概要


おそらくロボティクスの講義ではヤコビ行列について学ぶ機会があるだろう.ロボットにおいて,これは足先や手先と各関節間の運動学的・静力学的関係を記述する関数行列を意味する.一方,バイオメカニクスを専攻してもヤコビ行列を学ぶことはないかもしれない.しかし,身体運動の意味を考える上で実は必須の概念で,ヤコビ行列は身体運動(ロボットでも)において,全身の姿勢の意味を抽象的に議論する上では欠かせない数理的な道具だ.身体運動においてそこには多くの意味があるが,その中でも最も重要な意味をあえて取り上げるならば,それは身体全体のてこ比(モーメントアームの外積)をまとめて行列に記述していることだろう.ヤコビ行列を数理的に理解するためには,線形代数(行列,外積)と微分のごく基礎が理解できていれば難しくないので,ここでぜひ理解を深めていただきたい.物理的意味を理解しただけでも,面倒な計測や計算を行わずにヒトの運動を観察しただけで姿勢の良し悪しが判断できるなど,バイオメカニクスだけでなく,トレーニングや理学療法に携わる方にはメリットは多分にあるだろう.何回かにかけて丁寧に話を進める

目次

  • はじめに
  • 数学におけるヤコビ行列の意味
    • 多次元のヤコビ行列
  • 例題:平面運動
    • 極座標で表現した平面運動
    • 円運動の例
    • 法線方向の運動
    • ヤコビ行列の幾何学的意味
  • おわりに
  • 補足
    • 補足1:全微分と偏微分
  • 参考文献

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動かして学ぶバイオメカニクス #27 〜ヤコビ行列#1



概要


習熟した全身運動では道具が身体化されるという議論もある.一般に道具がパフォーマンスの最終出力位置に近く,道具の慣性は身体運動に強く拘束することが多い.そのような身体運動の力学計算では,身体の質量や慣性モーメントだけでなく,バットやクラブなどの道具のパラメータが必要である.ところが,身体の質量や慣性モーメントなどのパラメータを推定するモデルはこれまで示してきたが,道具の慣性モーメントは未知のときが多く自分で計測するしかない.そこで,ここでは慣性モーメントを計測する方法と原理について述べる.

目次

  • はじめに
  • 振動の力学
    • 単振り子
    • 単振り子の運動方程式
    • 単振動
    • 物理振り子
    • 二本つり振り子
    • 平行軸の定理の利用
    • 例:ボールの慣性モーメント計測
  • 例題
    • 慣性モーメントの推定の実際
  • 追記(230713):計測の実際と注意点
    • 振動周期の計算例
    • JABAボールの慣性モーメント
  • 補足
    • 補足1:単振り子の運動方程式
  • 解答例:ボールの慣性モーメント
  • 参考文献

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動かして学ぶバイオメカニクス #26 〜道具の慣性モーメント計測〜



概要


引き続き,アメリカンフットボールのキック動作の解析例を示す.特に理論的な目新しさはないが,これまでの解析の復習と捉え,貴重なデータを用いて実際に動かし,自由にコードを書き換えることで学んでいただければと思う.数理を自分でコード化し,動かして確認することで,数理の理解がより強固になるはずである.

目次

  • はじめに
    • この章の課題
    • 確認した動作環境とコードについて
  • アメリカンフットボールのキック動作の力学解析
    • キック動作における関節に作用するトルクによるエネルギー流入
    • 「関節に作用する力(内力)」によるエネルギー伝達
    • 「関節に作用するトルク」によるエネルギー供給・吸収: 遠位側への流れ
    • 「関節に作用するトルク」によるエネルギー供給・吸収: 近位側への流れ
    • 右脚に注目すると
  • おわりに

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動かして学ぶバイオメカニクス #25 〜キック動作の全身解析 2〜



概要


前章では加速度とは速度変化を示すグラフ上ではその速度曲線の接線の傾きであることと,それを計測する加速度センサはどちらかというと力センサとしての信号を出力するということを述べた.本章では,微分や加速度の数学的意味について復習をした上で,座標系と加速度の関係について述べる.

IMUを含むモーションセンサはウェアラブルセンサとも呼ばれ,計測は簡単だが,一方で運動学的な理解が不足すると解析で苦労する.単に加速度の大きさを知りたいという場合は簡単だが,剛体の加速度を対象とすると複雑となる.ここで,しっかりと加速度の運動学的な理解を深めていただきたい.


目次


  • 加速度の基礎
    • そもそも加速度とは? 〜数学的な視点からの復習〜
  • 剛体の加速度
    • ただセンサを貼り付けるだけではだめなの?
    • 加速度座標系における速度(まずは速度を考える)
    • 加速度座標系における加速度(もう1回微分をする)
    • 絶対座標系の取り方による違い
    • 剛体上の任意の位置の加速度の推定
  • おわりに

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IMUによるモーションセンシング #3 〜加速度信号と座標系〜



概要


IMUを構成する加速度センサとジャイロセンサ.このうち加速度センサはバイオメカニクスではそれ以上の意味を持つ.ここでは,身体運動の計測を意識し,その特性について述べていく.

ここで,もっとも注意すべきは,加速度センサは加速度を計測するセンサとして捉えがちだが,その本質は加速度に作用する力を計測するセンサであるということだ.加速度線センサは実は加速度を計測するセンサではないと述べるとギョッとするだろうが,さほど間違いではない.理解せずに加速度センサを利用すると,かなり痛い目にあうので注意されたい.


目次


  • そもそも加速度とは?
    • 加速度とは速度変化の傾き
    • 単位
  • 加速度センサは力センサである
    • 計測原理
    • MEMSセンサの計測原理
    • そもそも加速度センサはセンサに作用する力を計測する
  • 加速度信号の符号の問題点
    • センサは運動の加速度と反対向きの加速度を出力する(符号が反転する)

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IMUによるモーションセンシング #2 〜加速度センサは力センサである〜